兵庫-8. 武庫川(その5) 平成24年9月14(金)晴れ一時曇り

朝7時からのホテルの朝食を早々に済ませ、阪急宝塚駅を潜り国道の北側のJR駅に向かう。足元に宝塚市のマンホールが有り、花が描かれている。暫し考え答えはスミレの花。宝塚と言えば古い言葉でいえば少女歌劇、歌劇団の歌に「スミレのはーなー咲くーころ・・・」と有るので答えはスミレ。

 01.宝塚市と言えば歌劇、歌劇と言えばスミレの咲くー頃

阪急宝塚駅は宝塚線と今津線が入るターミナルで、その建物は南欧風の見事な佇まいで、歌劇を見に来るかつての少女も「素敵!」と言いたくなるような駅である。近鉄の宇治山田駅も古いが長い高架駅が、伊勢神宮の入口を示す見事な駅舎で、宝塚は21世紀の高架駅としてピカ一である。新幹線駅のつまらない同じような姿とは大違いである。

 02.阪急宝塚駅は夢がある

 03.宝塚歌劇の雰囲気をそのまま駅に

国道を渡ったJR駅も装いを変えたが阪急には敵わない。歌劇、東宝など美的センスが違う。駅から乗った4両編成の福知山行き各停は満員で、最後尾に乗るが女子高校生が通路に座り込み、おしゃべりと化粧に夢中である。武田尾で下車する時に車掌に車内放送で注意するよう話し、車掌もやりますと言う。
武田尾駅に再度降り立ち、昨日の道を廃線跡のスタート地点に向かう。ここから1km余りはトンネルに照明は無いが、宝塚市が公園施設として一応整備しているので、雑草が生えていることも無く気持ちよく歩ける。大半の区間は枕木がそのまま埋め込まれたままで、砕石も残り線路跡を実感する。計画ではこの区間は立入禁止になっている可能性もあったので、武田尾から生瀬まではパスする積もりであったが、昨日の店でOKとのことなのでやって来た。今日も暑いが木立に陽が隠れ、トンネルもありしのぎ易い。

 04.枕木の残る宝塚側の廃線跡

やがて前方のトンネルの前に大きな立て看板が立ち、この先は管理していないので事故時の補償はできない旨のJR西の警告が出ている。トンネルの先の橋を渡れば西宮市となり、市は一切手を付けていないようで荒れるに任せているようだ。真っ暗なトンネルを小型懐中電灯の光を頼りに凹凸の激しい坑内を歩く。懐中が無ければ歩行不可の状況である。トンネルを抜けると直ぐに橋があり、端っこの通路を通り右岸側に渡る。

 05.ここから先は事故時の責任は持ちません

 06.橋の端の通路を歩く

切り立った切土区間では5m置きに免責の警告版が続いている。雨中と大雨の後は歩かない方が良い。対岸にも道は無く、今や死語になった「西宮のチベット」である。新聞報道では、JRは近くこの区間の立入を物理的に禁止することを検討しており、西宮市さん、さあーどうする。
向こう側(左岸)には見事な岩が聳え、河床も見ごたえのある景観である。吉野川には及ばないが三役格の渓谷である。

 07.見事な岩が向こう側に

 08.河床も見ごたえあり

廃線跡の道は草木が進出し、ますます狭くなっている。上流側を見れば見事な渓谷が広がり、なんとか関西の宝として残したい物である。

 09.西宮側の廃線跡から上流を見る

 10.草木が茂り道は細く細くなりにけり

最後の長―いトンネルを抜けると白い岩が河床にゴロゴロ転がっている。かつてはこの渓谷を蒸気機関車が大阪駅まで走り、高校の窓から下淀川橋梁を白煙を上げて走るC-12を見ていたものである。東海道本線が電化されるまでは、電車が走る京都、明石、奈良、宝塚、和歌山までが行動圏で、蒸気機関車牽引の客車に乗るのは異空間に行くような思いがした。

 11.真っ暗なトンネルに懐中電灯は必需品

 12.白い岩がごろごろの終点近く

狭い渓谷が過ぎると廃線路跡も跡形も無い状態になる。 至る所に住宅が広がり、山や丘の上まで続いている。早速西宮市のマンホールがいらっしゃいと迎えてくれカシャ。絵柄は見ただけで分かる甲子園球場と酒造所が入っている。西宮には灘五郷のうちの西宮郷と今津郷があり、昨日寄り道をした伊丹も古くから酒造が盛んな所である。

  13.西宮市は甲子園球場と酒造所

西宮市は南北に細長く広がる市で、中国道に西宮インターが有るのが不思議である。川が大きく蛇行する地点で中国道が6車線で横断している。南側から対岸を見れば、丘の上に青葉台の住宅地とそこを串刺ししたように高速が通過している。かつて建設時には騒音などの環境問題が大きく取り上げられ、中央道の烏山と並んで調整に時間を要した場所で、西の青葉台、東の烏山と関係者の間では有名な場所である。自分は烏山の隣の工事区で三鷹、調布を担当していたが、隣の工事区の苦労を真近で見て来たのを想い出す。団地内は道路をスッポリト覆うシェルターで解決したようで、以後の高速で環境の厳しい区間ではシェルターが多くなった。

 14.中国道建設時に環境問題が大きくなった青葉台は此処

 15.高速をシェルターで覆うことで決着

交通量の多い国道176号の極端に狭い歩道を歩き、生瀬駅を過ぎ市道に入り、再度曲がりくねった川沿いを進むと宝塚市に入る。右岸側は山が川に迫り厳しい地形であるが、左岸側は平地が現れ高層マンションがズラッと建ち並んでいる。関西のブランド住宅地は流石である。

 16.谷間を抜ければ高層マンションが立ち並ぶ

アップダウンの繰り返される市道を進み、昨夜泊まったホテルが見えてくると宝塚駅に向かう市道が川を越える「宝来橋」に到着。橋はS字状に曲がり、桁をグレーの化粧版で覆うモダンな橋である。橋上は広い歩道と車道との間には園地が設けられた橋を感じさせない優雅な橋である。今までのベスト3に入れても良い橋である。景観の優れた橋の調査にかつて欧州を廻ったが、ここ宝塚に規模は小さいが優れた橋があった。

 17.宝塚駅に通じる橋もモダン

 18.橋の上は広い歩道と園地が優雅に、さすが

橋の袂には温泉があるが今日はパスし、更に右岸を進む。前方に歌劇場とマンションと音楽学校の建物が一塊になって建っている。形状、高さが異なる三つの建物はオレンジの屋根を載せた同じコンセプトでその姿を見せてくれる。日本では各建物がバラバラのデザインで全体としては醜悪な姿をさらしているが、ここは例外で見事である。

 19.三つの建物は見事にデザインを合わせている

阪急今津線を潜り宝塚大橋に来ると、歩道の途中にバルコニー風の広場があり、青銅製の像が展示されている。この像と三つの建物とのバランスが良く、思わずカシャ。この橋にも歩道と車道の間には園地が有り、足元に宝塚の象徴であるスミレの説明があった。

 20.宝塚大橋の上には瀟洒な像が映える

 21.橋の上には有りました、塚の象徴が

此処から河口までは15kmほど有り、今日中にたどり着くのはこの暑さでは無理なので、昼前であるがここを潮時として宝塚南口駅に向かう。阪急今津線には何十年ぶりかの乗車である。西宮北口経由で三宮に向かう。逆瀬川、仁川、夙川、芦屋川と川名の駅を通過すると、中高生の時にハイキングでこれらの駅から六甲山を目指したのを想い出す。久しぶりの三宮で遅い昼を摂り岡山に帰る。

今日の歩行距離:10.0km。調査した橋の数:14。
総歩行距離:4,994.7km。総調査橋数:8,352。
使用した1/25,000地形図:「武田尾」(京都及大阪11号-4)、「宝塚」(京都及大阪12号-3)