(西日本豪雨災害からの教訓と今後への対応検討)平成30年9月に作成
平成30年7月上旬に西日本各地に起こった豪雨災害はそれまでにない広い地域に各種の甚大な被害が生じた。災害の最大原因は記録的な長時間の連続降雨と100ミリを超える時間雨量による山、崖崩れ、河川氾濫、堤防決壊による浸水であるが多くの原因が重なり大災害となった。今回の災害を教訓としてその原因と今後の対応について私なりに概略の検討を行った。
今回の災害現場の多くは、河川遡行として川とそこに架かる橋の調査を8年間行ってきた川が大半で、災害現場の元の姿が目に浮かぶ。
A. 初めに
今回の災害が異常気象が引き起こしたものとの認識が多いだろうが、地球温暖化の影響でこのような気象が今後も毎年のように何処かで生じることを覚悟し、それに対する心構えと対応策を早急に詰めていく必要が有る。これまでの制度、基準、手順を全て見直していくことも必要となる。
B. 原因と対策・対応
1.事前の自治体、住民双方の地域の起こりうる災害の種類、程度の認識不足、情報の伝達不足
例:小田川(岡山3-1.)の高梁川本流への合流点近くの浸水予測
→ハザードマップに記載されている
→浸水を想定した三セク鉄道の平地を横切る異様な高さの高架橋の存在
⇒・自治体作成のハザードマップ、地域の特徴・過去の災害履歴、情報の種類とその内容、避難場所の位置、注意事項などを記載した資料を自治体が町内会などを通じて全ての住民に配布、説明を行う。
・小学校高学年、中学校のカリキュラムに地域の状況と安全に関する講座を組み入れる
・不動産販売時にその地域の防災関係の資料を提示、説明を義務化する
2.国と県、市町村間の情報提供時期と内容が不十分及び避難情報の複雑さと解りにくさ
例:肱川(愛媛-1.)の野村ダム、鹿野川ダムの緊急放流までの情報提供時間とその内容
→夜間に大雨が降っている時のスピーカーによる注意喚起は聞こえにくい
→決められたマニュアルによる情報提供であるが、階段状に知らせている。
⇒・異常時専用テレビ局の開局と地域別情報の集積、提供(テレビショッピングに使用されている民放の衛星放送などはいらない)
・緊急放水までのきめ細かい放流量の発表とその予測時間の発表
・雨量計に頼らず、レーダー解析を全面的に取り入れ河川毎の流域総雨量と水位予測を実施する
・「狼が出た、狼が出た」とならないように異常気象情報、避難情報の精度、範囲の精査
3.安全、安心に係わる河川、ダム、砂防施設、溜池などの防災改修、新設に係わる工事の私権による遅延、中断
例:小田川の合流点手前のバイパス化計画
→本流との合流点を合流しやすい地点に変更する計画は以前から在ったが地主の反対で中断していた
⇒第三者委員会の審議を経て私権を制限し、計画が実施できるよう執行する制度を作る
C. その他
1.避難所の設置と住環境のレベルアップ
避難を躊躇う一つの理由として、その場所での環境が悪い(狭い、うるさい、眠れない、プライバシーが保てない など)がありこれが被害者増大の要因になっている。緊急避難当日は近くの学校、公民館などに避難するのは止むを得ないが、家が被災した時の避難所として仮設の簡易プレファブ住宅を国と都道府県で一定の数を全国的に用意しておき、被災後ただちにこれを被災地区周辺に設置する。本格的な仮設住宅が完成されるまでの数か月間の生活が出来れば良いので、安心して眠れる程度の物で良い。
2.国管理区間と地方自治体管理区間の境界部付近の見直しと連携
3.地域の地形、地質等の特性から可住人口の上限の範囲内での生活を目指す(特に広島市とその周辺)
4.今回被災地域の国、自治体、住民代表による被災総括を実施し、後世への連絡、警鐘として活用する
5.鉄道(在来線)の防災設計、リニューアルの実施
新幹線と高速道路は新しい工作物でかつ防災に意を注いだ設計になっているので大きな被害は少なく、かつその構造特性から直ぐに応急復旧が為され通行止め期間が短く済んだが、在来線は明治時代に建設された物が多く、法面防護、排水施設などに劣化が進んでいると思われる。今回の災害では大動脈が長期間止まる異常事態となっている。特に利用者の少ないローカル線の劣化はひどく、最徐行区間の増大が進んでいた。これを機会に防災工作物のリニューアルの実施が望まれる。