愛媛1-1. 矢落川 平成25年3月29日(金)曇り
再び愛媛に戻り内子駅に降りたつ。多くの川が集まる内子には4度目の下車である。直ぐにタクシーに乗り込み、肱川の最初の長い支流の「矢落川」の上流に向かう。この川沿いにはかつては伊予鉄バスが入っていたが今は無く、コミバスも無い交通不便渓谷である。川は伊予灘沿いに屏風のように聳える山脈の南側の伊予市双海町から一旦北に流れ、海まで2kmという所で山に阻まれ南に転進し大洲市の北東部から南に流れ、里で西に方向を変え五郎で肱川に合流する22km余りの川である。大洲市田処の出店まで仕方なくタクシーをはりこみ上流から川を下ることにする。こんな所に向かう人は珍しいのかドライバーはいろいろと地元のことを話してくれる。25分ほどで目指す出店に到着する。二つの川が出合う所は普通出合と称しているがここは出店と言う。県道54号の橋から下ることにする。橋際には今が満開の桜が咲き、橋の親柱には蛍が飛び交っている。この川ぞいには大きな集落も無く清流が流れていることを予感させてくれる。
橋の直ぐ南にはとても郵便局とは見えない簡易局も有り、向かい側はかつての路線バスの回転場の広場とバス停標も残っている。学校とバス路線は全国から亡くなっているが郵便局だけは必ず有り、局を見るとほっとする。川向かいには廃校となった田処小の川沿いの校庭に染井吉野が見事に咲き誇っている。桜は小学校と川の土手沿いが最もふさわしい場所であるが、ここにはふたつとも備わっている。
道路沿いでは大きな椿の木が桜に負けじと斑模様の花を多く咲かせている。県道が対岸に渡る橋の際に蛍の解説板が立っている。この川には県指定の天然記念物の蛍が生息しており、先ほどの車中でも運転手さんが蛍の舞う季節にお客を運んで来たと言っていた。
広くも狭くもない渓谷をのんびり下ってくると、左の山裾に4種類の桜がその美を競っている。山、枝垂れ、染井吉野など色の違いが微妙に異なり、桜の4種盛り合わせのようだ。通り過ぎ後ろを振り返れば若草が萌え、路辺の菜の花とまさに春爛漫である。
川が大きく湾曲する対岸の出っ張りにこんもりと森が繁り、先っちょには鳥居と橋がある。まさに神社にもってこいのロケーションの場所である。鳥居から森の奥には朽ち果てた長い石段が続いている。
やがて柳沢地区の中心に入る。ここにも小学校の廃校跡が有り、校庭には桜とこぶしが咲いている。県道の向かい側には郵便局と駐在所も有る。小学校、郵便局、駐在所の3点セットが在る所はかつての村の中心の場所である。
南に流れていた川が一旦東に変わり谷間に入る。再び南に方向を変えて進むと県道の傍らに大きな石板が建ち、地区の日清戦争から太平洋戦争までの戦死した軍人の名前と死亡日、階級、場所がズラリと彫られ、花が添えられている。このような地区ごとの鎮魂碑は渓谷の道の傍らでよく見かけるが、ここのは大きく今でも花が添えられ大切にされている。
川沿いには染井吉野よりピンク色が濃い桜の「陽光桜」があでやかな色を見せてくれる。くだんの運転手さん自慢の桜で帰宅して調べると、愛媛で誕生した新種の桜で桜の女王と言われているとのことである。北側に養豚場が有るのか強烈な臭いのする場所に桜、椿、菜の花と色々の花がその姿と色を競っている。匂いもこの競演に負けてしまう。下を見れば舗装の隙間からスミレもけなげに顔を出し、私も見てねと言っている。
再び南に下る狭い渓谷の1車線の道を進む。道と川の間には所々満開の陽光桜が現れ、薄曇りの天候ながらあでやかな色が際立つ。桜と桃を掛け合わせたような姿と色である。
渓谷が少し広くなると集落が現れ、家の横には今が見納めの深紅の枝垂れ梅が強烈な色で個性が際立つ。道の両側には白色と黄色の水仙が一斉に咲いている。天上天下、花の極楽地帯である。
その名も麓地区に下り、県道から対岸の里道に入る。里道に面した民家の庭や畑の傍らには色とりどりの花が咲き、総天然色の世界が広がる。
再び県道に戻り喜多山地区に入ると、西側の山の手前に秋田県の象潟のような浮島が神社の森になっている。先ほどの神社も好いがここもエエナー。渓谷と里の神社の双璧である。
南から大きく西に方向を変えると予讃線、国道56号、松山道が合流する広い谷間となる。県道を離れ川の土手の上の管理用道路を西に向かう。直ぐに県管理区間から国管理区間を示す標識が現れ、川幅も俄然広くなる。支流に本流の影響が及ぶ所までは国管理としているようだ。国管理区間になると現れる大きな川名の看板が立ち、背後には帝京第五高校の校舎が連なる。こんな所にスポーツ選手と芸能人の多い帝京高の兄弟校が有る。
谷間から平野部にと広がり、黄砂の影響か薄曇りの空が霞んでいる。本流遡行時に見覚えのある雄大な山が大洲の東にどっしりと構えている。地形図には名前が載っていないが標高654mの山である。
どんどん広くなる川の土手の上を西に向かい、本流に合流する手前で川は本流と向きを合わせるように北に方向を変える。洪水時の本流の影響を少なくするための平行合流と判断する。合流点直前で予讃線の海廻りの長浜線が川を渡る。丁度上り単行列車が橋を渡るところに出合いカシャ。直ぐの県道を過ぎた所が合流点で、先日歩いた本流の左岸の堤防が彼方に見える。
かつては予讃線(旧線)と内子線の分岐駅であった五郎駅は東に2kmほど移動した地点に移り、県道と東の山の間の狭い所に有った。10分ほどで予定していた下り列車がやって来てこれに乗り一駅先の大洲駅で降りる。30分余り待合室で過ごし上り松山行き特急宇和海に乗車。宇和海20号はお化粧直しされたアンパンマン列車で、松山で乗り換え岡山には20時11分着。愛媛の奥を5時間歩いても岡山に日帰りができるようになった。
本日の歩行距離:16.8km。調査した橋の数:26。
総歩行距離:5,789.3km。総調査橋数:9,323。
使用した1/25,000地形図:「串」(松山7号-3)、「内子」(松山7号-2)、「大洲」(松山7号-4)