広島-2.沼田川(その2)平成23年8月14(日)晴れ
8時過ぎ、一昨日の折り返し点の本郷橋から遡行の再開。国道2号線はここで本流と山陽本線と袂を分かち、支流の梨羽川に沿って西に方向を変える。勾配に強い道路は大回りになる本流から距離の短いルートを選ぶ。明治時代に建設された山陽本線(当時は山陽鉄道)は、長大トンネルと蒸気機関車の泣き所である急こう配を避けるルートを選定せざるを得ず、三原~広島間にある標高230mほどの賀茂台地に東からはこの沼田川を遡り、西からは瀬野川を遡るルートを採った。沼田川は川が長いので10‰以下の勾配に収まったが、瀬野川は短いため最後の瀬野~八本松は25‰の勾配になってしまった。この間は電化された現在でも貨物列車は後部に後押しの補機を付け急坂を登って行く。かつては特急「はと」などは広島で補機を付け、八本松構内の勾配が緩くなった地点で停車せずに後部補機を切り離していた。かつての東海道本線の御殿場線でも同じことをしていた。
右岸から遡行を始めると、北側に川の両側に門のように山がせり出している。小早川氏がかつて築城した高山城址が山の頂にあったようで、向かって右側(東)が旧高山城で左側(西)が新高山城である。よくぞこんな所に城を建てたものである。旧山陽道に近い所でにらみを効かしていたのだろう。城の上下に疲れてその後隆景は海に面した三原に城を移したのだろう。

image1  01.旧高山城址(右)と新高山城址(左)

image2 02.新高山城址登山口
この二つの山にトンネルを穿ち山陽新幹線が川に顔を出す。橋の下に来ると軽くドンと音が響いた。来たな!新幹線がトンネルに突入した時に発する音が出口で放出される。30秒ほどしてN700系が現れる。時速300キロで走行していれば、トンネルの長さは約3kmとなる。

image3  03.高山城址と新幹線の橋

image4 04.丁度のぞみが通過
やがて今度は山陽高速道路が広い谷間のはるか上を横断している。この川の両側は200m以上の台地状の山があり、高速道路はこの台地からジェットコースターのように降りてまた上がってゆく。新幹線は長大トンネルはなんてことは無いとトンネルの連続で台地を上がってゆくが、高速道路はそう言う訳にはいかないので長い高い橋でしのいでいる。新広島空港はこの高速道の北側に並行して建設され、高速と空港がタッグを組んだ好例である。
空港の滑走路の延長線の真下を高松空港に続いて歩く。やがて東から大型ジェットがゆっくりと現れ、西側の台地に隠れる。山陽本線は我関せずと黙々と川沿いをくねくねと上がって行く。川を歩いていると、道路と鉄道のルート選定の違いが良く分かる。

image5  05.県道交差点と山陽道

image6 06.山陽道と山陽本線
image7 07.山陽道の上に空港に進入する飛行機が
左岸の県道33号を歩く。直ぐ右側の山陽本線の架線を支える支柱が、2線分を門型で支えるか1線ずつそれぞれが支えるのが一般的であるが、川と道が接近している所では、門型の道路側の支柱を根元から切り取ったような片持ちの支柱が続いている。電化工事の際、山側にはポストを立てる余裕があったが、川側(道路)にはその余裕が無く、線路を移設することもままならず、止む無く片持ちの形状になったのであろう。
image8  08.片持ちの架線支柱が続く
北に向かっていた谷間を90度左に曲がり西側に向かうと谷間の向こうの遥か高みにアーチ橋がいきなり現れる。朝日が当たり、白色の橋がまるで想像図の橋のように見える。よくもこんなに高い広い谷間に橋を架けたものである。海に橋を架けるのも想像を絶するが、この谷間の山の頂を繋ぐ橋も絶する。広島新空港と県の北東部を繋ぐ県道で、アーチスパン380m、橋の高さ190mと日本一のスケールである。山陽道でも谷間に極力降りて、橋のスパンを短くしているが、ここは大陸的な発想で一気にそのまま谷を渡っている。アーチ橋の架設は橋の中では最も難しく、事故も起こりやすい橋であるが、見事に完成している。
image9 09.谷間に空港大橋が現れる
県道の路面には県の木モミジをデザインした広島県流域下水のマンホールが続く。道の右側に県の左側に町のマンホールが並列して共存している。
image10 10.広島県流域下水道マンホール
アーチが段々近づき迫力が増す。両岸の橋台付近までは工事用道路、桟橋、資機材を上に運ぶインクラインなどが多く設置され、本体の架設までの準備工、仮設工に相当の期間と工費が掛かったことが分かる。本四の海上工事でもこれらに相当期間と工費を要したが、こちらの方が比率は高そうだ。橋は完成し供用されているが、これらの施設はこれから撤去に入るだろうが、最後まで安全な工事を祈る。
image11 11.日本一のアーチ橋が眼前に

image12 12.右岸側の施工仮設備

image13 13.左岸側の施工仮設備
やがて道は旧本郷町(現:三原市)から旧河内町(現:東広島市)に入る。三原からは御調郡から豊田郡となり安芸の国に入ったが、ここからは賀茂郡となり、車のナンバープレートも福山から広島に変わる。早速国会に立候補を予定しているポスターも変わる。備前、備中、美作、讃岐、備後と来て安芸に来た。アーチ橋は段々遠ざかり、白色が本来のライトグレイになった。瀬戸大橋たちと同じ色である。
image14 14.上流側からの空港大橋
汗だくになり今日の終着点「河内駅」に着く。風通しの良い駅の待合室で30分ほど電車を待つ。ここから次の本郷駅までは12.3kmもあり、山陽本線は広島、岡山付近を除いて駅間距離が長い。最長は兵庫と岡山の県境の上郡~三石間で12.3km、瀬野~八本松間が10.6kmある。近くで最長は本四備讃線(瀬戸大橋線)の児島~坂出間が22.7kmと長い。上には上が有り、北海道には青函トンネルを挟んだ津軽今別~知内間が63.0kmと日本一である。石勝線は、新夕張~占冠が34.3km、占冠~トマムが21.3km、そしてトマム~新得が33.8kmと駅間距離が新幹線並みの長さで続く。北海道のこれらの区間では特急列車のみ運転され、普通列車は無いので例外であるが。おかげで青春18切符でこれらの区間は乗車可能である。山陽本線は長距離鈍行が数多くあり、朝には岡山発広島行き、岩国行き、そして下関行きと現在の最長鈍行が走っている。特急列車が無いので退避が無く、線形も比較的良いので表定速度が高く、かつての急行列車なみで、18切符利用者にとっては距離が稼げる有り難い線である。
本日の歩行距離:13.3km。調査した橋の数:13。
累計歩行距離:292.6km。累計調査橋数:369。
使用した1/25,000地形図:「竹原」(広島2号-2)、「河内」(広島2号-1)