徳島1-7.祖谷川(その1平成25年1月25日(金)晴れ一時曇り

朝8時52分、祖谷口駅に降りたつ。先週の銅山川の時と全く同じ列車を乗り継ぎ、一駅手前の祖谷口駅に着く。1月下旬の一番列車が空く時期で、池田までの特急は1両に数名の乗車で、池田発車時は5両に20名程度の乗車。乗り変えた須崎行きワンマンカーは貸切となる。「運転手は君だ、客は僕だけだ!」で走る。これでは運転手もやりがいが無く、勤労意欲が無くなってしまいそう。

本来は先日の銅山川の続きをしたいのであるが、新宮から先は超過疎地域で20km余りの区間はバスの便が無く、新宮のタクシーも廃業し足の確保が出来そうにも無いので暫く置いといて、この祖谷川を歩くことにした。

吉野川遡行時に歩いた駅から祖谷口橋まで国道32号を少し歩き、本流を超える橋を渡る。橋の際には多くの町村が合併した三好市の観光図が建っている。祖谷川は椎葉村、白川郷と並ぶ日本三大秘境の祖谷地方を流れる川で、剣山の北西斜面から西に山波と並行に流れ出し、有名なカズラ橋付近から北に方向を変え、山脈を横断し吉野川に合流する54km余りの長い支流である。この山脈を横断する所が祖谷渓で深い渓谷が形成されている。

image1  01.秘境祖谷に祖谷口から入る

image2 02.三好市観光地図が県道に

その名もズバリの祖谷口橋を渡り祖谷川に入る。対岸に渡る川崎橋の袂には「いかんでよ」と徳島弁丸出しの注意看板が立ち、思わず笑ってしまう。本四には四国出身者も多く、徳島出身のA君の言葉を想い出す。対岸の川崎集落は北向きの影にも係わらず山の上まで家が散開している。希少な緩斜面に人は集まったのだろう。

image3  03.徳島弁の注意書き

image4 04.対岸の川崎集落は山の上まで広がる

祖谷口から祖谷川を遡っていく県道32号は2車線の道が暫し続く。川がフロリダ半島のように曲がる地点の始まりから上流を見れば、大規模な渓谷の始まりを知らせてくれる。山側には沢からの水が引き込まれ、おいしい水が何時でも飲める状態で、有る所には有るのである。夏場なら有り難いが今日は気温がゼロでパスする。

image5  05.渓谷に入るがこれは未だ序の口だ

image6 06.24時間無料飲み放題だ

道は緩やかな坂道が続き、川面は少しずつ下になってゆく。池田町大申(おおもし)地区に来ると四電三縄ダムが緑色の水を貯めている。この祖谷川には支流の松尾川を含めると8つも発電所が有り、ここからの水は川崎の県道の真下にある三縄発電所に送られている。やがて最大の二次支流である「松尾川」が合流する出合に着く。ここにも出合が有る。この松尾川は20km以上もある支流で、最上流部にも集落があるが、この川沿いの県道にはバスなどの交通手段は無く、これぞ本当の秘境中の秘境となっている。

image7  07.眼下に三縄ダムを見る

image8 08.松尾川の合流部の地名は出合

松尾川に架かる出合橋を渡ると直ぐに出合発電所が現れ、県道脇を4本の長―い送水管が遥か上に延びている。説明板によるとその高低差は125m。10km先から渓谷沿いに掘られたトンネルを通り、ここで一気に管から発電機に水は流れる。トンネルを掘っている時に温泉水と当たり、これが祖谷地区に温泉があちこちに出来たきっかけになったとある。

image9  09.出合発電所の送水管は4本

image10 10.高低差125mの送水管

出合から県道は1車線もしくは1.5車線の狭い道になったが、先日の新宮への国道程狭くは無い。頭上から鳥の鳴き声とは違う声が聞こえるので良く見ると、二匹の猿が泣き叫んでいる。日頃車しか通らない路を人が歩いているので威嚇しているのかも知れない。遠くなってきた水面は緑色が濃く、遡行者のみが味わえる景観である。

image11  11.頭上で猿が泣き叫ぶ

image12 12.緑色の水面が続く

西側の対岸の沢では幾段にも続く細長い滝が見える。昨年訪れたスイスの車窓から見た滝に似ているが、あちらは氷河の端末から流れ出し、氷河が削った岩の粉末が混じった灰色の水であるが、こちらは純粋の真水である。

やがて渓谷は大きく蛇行し、県道は国東半島のような姿で大きく曲がり高度を上げていく。川はU字形に曲がり、高い位置にある県道からはその様子が良く分かる。川に挟まれた半島状の山は相当固い岩盤なのであろう。

image13  13.スイスを想い出す細長い滝

image14 14.U字形に渓谷が曲がる

国東半島似の線形の県道はますます高度を上げ高い山の斜面を縫い、祖谷渓谷は深い渓谷となっていく。あの「箱根の山は天下の剣、函谷関も物ならず・・」はここを見ないで作詞したのであろう。鳥居さん!ここからは祖谷川の最大の景観である「祖谷渓」で、入口にはこの渓谷の道が明治35年から大正9年まで20年を費やして完成されたと記された説明板が有る。自分から見ると瀬戸大橋よりも困難な土木事業に見える。西には吉野川との間を隔てる国見山(H=1,409m)が東には中津山(H=1,446m)がどんと構え、この間の急峻な谷間を川は流れる。出合集落から一宇集落までの10km余りは一軒の民家も無い無人地帯で、まさに秘境でこんな所を大型路線バスが1日3往復もあるのは奇跡的である。

image15 01.深い祖谷渓に入る

image16  02.この渓谷の道は20年かけて完成した

image17 03.谷底までは200mも有る

祖谷口から1km毎に設置された大きな距離表も11kmとなり、上流のかずら橋までも10kmとなった。険しい道が続くため行き交う車のドライバーの励みになっていることだろう。

image18 04.1km置きに設置された距離標

曲がりくねった道を何度も曲がり進むと、最も川に近づいた絶壁に小便小僧が立っている。これで3度目のご対面であるが、よくもこんな所に小僧を建てる気になったものである。実際にこの絶壁の迫り出した上から小便が出来る剛の者は何人いるだろう?途中ですれ違ってかずら橋に向かっていたバスが折り返して池田に向かうのに出会う。シーズンには懐かしいボンネットバスもこの道を走る。

image19  05.久しぶりに再会した小便小僧

image20 06.ここから小便が出来るかナ?

image21 07.狭い県道を通る四国交通バス

やがて道が川に大きく迫り出した地点に祖谷温泉ホテルの建物が現れる。これで3度目の出合であるが、この絶壁の端に大きな旅館を建てる勇気はすごい。温泉は渓谷の底の河原にあり、眼前に祖谷川の流れが見える湯でかつて長男とマイカーで来たのは10年ほど前である。建物から200m近くの谷底まではケーブルカーで降りるが、振り返って写真を撮ると車体が大きくなっている。来館者が大幅に増えて大型車に交換したようで、めでたし、めでたし。

image22  08.県道脇の祖谷温泉ホテル

image23 09.斜面にへばりついた温泉宿

image24 10.谷底の温泉に向かうケーブルカー

温泉付近がサミットのようで道は緩い下り道と変わる。1車線の道も温泉客のためにか少し広い1.5車線となっている。対岸には本流との間に横たわる国見山(H=1,409m)がドンと鎮座し、我こそは此処の主であるぞと言っているようだ。

川も県道もW字のように曲がり、山の中腹を通る道からは川が大きく蛇行する様が良く分かる。曲がり角に解説板が有り、この区間はその形からひの字渓谷と言われており、天下の絶景である。これぞ遡行の極みの景観である。

image25  11.対岸には国見山(H=1,409m)が鎮座

image26 12.渓谷が大きく蛇行する

image27  13.この蛇行区間は「ひの字渓谷」と言う

image28 14.これぞ絶景だ

ひの字の終わる地点に来ると今度は地質鉱物の天然記念物の解説板が現れる。片岩の中に礫が混入した珍しい岩とのことで、県道の反対側の岩の斜面を良く見るとそれらしき礫が廻りと違う色をしており、これが含礫片岩と理解しておく。

image29  15.含礫片岩の解説板が現れる

image30 16.背後の斜面に礫が挟まった岩が有る

渓谷の空間が広がると西祖谷山村(現三好市)の中心一宇に入る。全く何も無かった空間からいきなり中学校と街並みが現れる。地名は一宇であるが、県道に建っている小学校の標識には「櫟生小学校」と書かれ、読みは同じであるが字は全く違う。阿波には一宇という地名が多くあるようで、これで二度である。

image31  17.西祖谷山村の中心一宇

image32 18.小学校名はなぜか「櫟生小」となっている

旧村役場前を通過し、大歩危駅からこちらにやって来る県道45号が祖谷川を渡る新祖谷大橋を診てここを折返し点とする。ここまで20km近く歩いて出会った橋はダムを含めたったの5つ。これぞほんまもんの秘境である。

帰りのバスまで時間が少し有るので一宇まで戻りバスを待つ。直ぐに池田行きのバスが到着し乗車し最前列に座る。今日も貸切バスとなり、池田駅まで60過ぎの運転手さんと話をしながら1時間強の乗車となる。バスから見ると、よくぞこんなに狭く曲がりくねった道を走るものだと感心する。さすがプロは違う。

image33 19.貸切で池田駅まで乗車

本日の歩行距離:19.2km。調査した橋の数:5。

総歩行距離:5,521.9km。総調査橋数:8,973。

使用した1/25,000地形図:「阿波川口」(高知1号-3)、「大歩危」(高知1号-4)