愛媛-3.中山川(その2)平成24117日(水)晴

 

東京から帰省した孫の753のお参りなどで見送っていた遡行に1週間ぶりに出かける。恒例の坂出駅に立ち寄り割安切符を買い、今日は初めての新居浜駅に降り立つ。駅が町の中心部から外れているせいか、駅前は空地が多く閑散としている。駅付近で新居浜のマンホールを探すが、期待に反してつまらない幾何模様なのでがっかり。

新居浜駅始発の松山行きバスに乗り前回の折返し点の湯谷口を目指す。新居浜市内を大きくぐるりと廻り客を集め、15分ほど余計に廻り西条方向に走るが、住友の工場、病院などが続き流石住友の企業城下町である。国道11号線を快調に走り、ふと市町村名の案内標識を見ると、西条市の旧小松町が昔の名前で出てーいーまーす。

 

 01.国道に表示された市町村名は昔の名前で出ています

 

湯谷口バス停で降り、国道の直ぐ南側の旧道を歩いて行くと大きな石碑が建っている。裏に廻ると「右:金刀比羅、左:丹原、今治」と記されている。かつては国道11号線は金比羅街道と呼ばれていた名残がここに有った。

 02.右:金比羅、左:丹原・今治

直ぐに国道に合流し、道は狭く急な渓谷に入って行く。眼下の川は中山渓谷となり、見事な岩盤の上を細い流れとなって流れている。国道はこの中山川に沿って東予(島前)と中予(道後)の境に登って行くが、高速道の松山道は予め早くから高度を稼ぎ、ここでは頭上高く渓谷を通過して行く。鉄道の予讃本線はこの渓谷に恐れをなしたのか、それとも今治を外せなかったからなのか大きく高縄半島の海岸線沿いに迂回して松山を目指している。今ではこれがあだとなり、高松から松山までは高速バスの方が優勢である。特急の5両は岡山から、2または3両が高松からの編成がこれを示している。直進するのと迂回するのとでは35km程度の差が有る。四国に新幹線は無理なようであるが、小松~松山間を高規格在来線で結べば30分以上の時間短縮となる。

 

 03.直ぐに中山渓谷に入る

 04.渓谷の頭上を横切る松山道

 

梶集落に来ると「これより10km桜三里」の標識が現れる。三里が10kmとは?江戸時代に街道整備の時に地盤を固くする桜の木を峠道の三里の区間に植えたので桜三里と言われだしたようである。

 05.これより桜三里が始まる

 

渓谷の底の岩は大きな岩盤の連続で、スケールでは吉野川の大、小歩危に負けるが、石の見事さは勝っている。紅葉が始まり出し、川面が青石の間で紅葉を写しグラデーションされている。

 

 06.川面がグラデーションに

 07.青石の間を水は流れる

 

一番の支流「鞍瀬川」が合流する地点の地名が「落合」。ここにもまた有った。落合を過ぎるとそれまで狭いながらも有った歩道が無くなり、排水構に蓋が載った路肩を歩くことになる。交通量が多く、大型車の混入率が高い国道に歩道が無い!この三里区間は昭和30年代後半に一時改築がなされた国道で、当時には歩道を付ける余裕が無かったのであろうが、歩く身になれば文句も言いたくなる。「歴代の松山国道事務所長よ!一度この区間を自らの足で歩いてみろ」。

 

 08.恐怖の歩きが続く

 09.錆びて朽ち果てる橋の上に高速道

 

眼下の川に架かる橋を診るため国道から坂道を降りると、架設桁の架かった橋は錆び朽ち果てつつある。頭上高くには高速道路の新しい橋が聳え、時代の変遷を感じる。50mほどの高低差のある国道に戻り、恐怖の歩きが続く。今までの遡行で最高の恐怖を味わう。

やがて対岸(左岸)に見事に尖がった岩山が現れる。地形図で読むと「千羽ケ岳(H=412m)」とある。これぞ「子槍」である。国道を進むとその姿は徐々に変わり、西側から見ると入母屋屋根の形に見え迫力が半減する。「甲斐で見るより駿河・・」の富士山では無いが丹原から見るのが良い。

 

 10.対岸に天に向かって聳える千羽ケ岳

 11.横に廻れば迫力が半減

 

谷が少し広くなった所が西条市丹原町と東予市旧川内町境で、国道に地名標識が高く見える。東温市とは聞き慣れない市名である。調べてみると、温泉郡重信町と川内町が合併して出来た新しい市で、温泉郡の東側を地元では東の温泉郡から東温地区と呼んでいたとある。地元以外では聞き慣れない地名で、郡名を摂って温泉市とする訳にもいかず止む無くこの市名にしたのであろう。

 12.東予から中予の東温市に入る

旧川内町に入ると愛媛県が建設運営している道前道後第三発電所が現れる。県営の発電所は珍しく、道前道後地域の工業用水確保、発電を目的とした総合開発で、重信川と合わせて実施されたようで、発電所の元の水はお隣の仁淀川の上流の水を長いトンネルで引いて、先ずこれから遡る滑川の第二発電所に送られ、発電後はここ本流の中山川の第三に送られる。対岸には珍しいお茶畑が広がっている。直ぐ上流の川が大きく屈曲する青い岩の上には開閉所が造られている。

 

 01.発電所の対岸に茶畑

 02.川の屈曲部の岩の上に開閉所が

 

歩道も路肩も無い短い落手トンネルを車が途切れた頃を見計らって急ぎ足で通り、国道11号と分かれ名前の変わった滑川沿いの県道302号に入る。先ほどの鞍瀬川との合流点で落合の地名が先取りされたのか、ここの合流点の名前は「落出」と出合の単語を仲良く分けて名乗っている。

地獄の国道から狭いながらも車の少ない県道は仏である。ここからバスの起終点である海上(かいしょ)まで秋本番の川を歩き出す。喧騒に塗れた道から日本の秋を感じさせる川沿いの道は素晴らしい。道と川との間の所々に有る紅葉は微妙な色の違いを見せ、赤一色よりもグラデーションがかかり味わい深い。緑から黄緑、黄色、オレンジ、薄紅、赤と樹の枝毎、場所毎に色が異なる景色は春の桜と双璧を成す。人間も年を取るとかくアリなんと思う。

 

 03.紅葉の色がグラデーションに

 04.陽に映える紅葉

 

狭い谷間に民家は無く、こんな辺鄙な所に未だにバス路線が有るのは信じられない。川向こうの林道に向かう橋は丸太二本の上を床板で繋ぎ、手摺まで有る究極の手短な橋で、良く出来ている。橋の周りは紅葉が始まり渡るのはいささか怖いが風情のある橋である。

 

 05.究極の橋に手摺が付けてある

 06.怖いが風情のある丸木橋

 

川沿いの道は少しずつきつくなるが、次から次ぎに現れる紅葉に気分は爽快である。時々谷間が広がり集落が現れる。1日4往復ある伊予鉄バスのバス停の標識は見当たらないが、集落から県道にやってくる狭い道の橋の袂のガードレールにバスの時刻表が貼ってある。バスは何所でも乗り降り自由なデマンドバスなので標識は不要で、通過時刻だけが分かればOKなので、これでいいのかも知れない。

 

 07.渓谷は色とりどり

 08.ガードレールにバス時刻表が

 09.こちらは樹にくくりつけている

 

上に登るほど紅葉の色の赤色の比率が高くなってくる。これだから川の遡行は止められないのダー。標高400mを越えたあたりに今度は県営第二発電所と第三発電所への取水ゲートが現れる。

 10.これだから川歩きは止められない

これまでの狭い谷間が急に開けると海上バス停と橋の彼方に別世界のような海上集落が現れる。海上と書いてかいしょと読む。こんな山間部に海上と名乗る地名があるのはミステリーである。ここまでの谷間は海面下だったのかも知れない。ここまでバスが来ている理由が分かったような気がする。紅葉の樹の下のバス停は一幅の絵のような景色である。直ぐに下から上がって来たミニバスが現れUターンして直ぐの発車となる。まさにジャストタイムでバス停に到着した。バスは真っ新な伊予鉄のミニバスで写真を撮って直ぐに発車する。乗客は当然我一人。バスは最新式で、車内の案内表示板にオバマが大統領選挙に勝ったとテロップが流れる。これは今まで無かった最新のバスで、こんな辺鄙な所で米国のニュースが流れて驚く。

 

 11.始発バス停の海上はエエナー

 12.真っ新な伊予鉄のミニバス

 

若い運転手に聞くと、この路線は最近東温市から委託された路線とのことで、車体は伊予鉄バスであるが、実質はコミバスである。それにしても1日に4往復も有るのにはビックリである。狭い道を上手いハンドルさばきで国道迄降りて落手バス停で下車する。バスは東温市役所まで国道を西に走り去って行く。国道のトンネル入り口の新居浜行きのバス停で暫し待ち、瀬戸内バスに乗り込む。地名、バス停名は「落出」であるが、トンネル名は「落手隧道」と称し、トンネル入り口の上に書かれている。何かの落手があったのかな?

 

 13.落出バス停の先のトンネル名は落手隧道

 

今日の歩行距離:14.8km。調査した橋の数:22。

総歩行距離:5,240.6km。総調査橋数:8,605。

使用した1/25,000地形図:「伊予小松」(高知13号-4)、「東三方ケ森」(松山1号-2)、「伊予川内」(松山2号-1)